相容れない二人の恋の行方は
「恋……?」

 うわごとのように無意識に口から出た言葉。
 いつ新谷の言葉が嘘でどんな作り話で私をさらに混乱させるのかと覚悟して返事を待ったけど彼は何もそれ以上言わなかった。
 私は、長い沈黙の間、新谷を拒否しながらも一方では全く別のことを考えていた。
 新谷がつまらない嘘で女心を傷つけたり、弄ぶようなことはしないってこと。昔から男性が苦手な私が唯一、こんなにも近くで接することが出来る人なのだから。

 おかしな話だ。相手は、一度、その元を逃げ出して、今だって三日に一度はどうしたら今の生活から解放されるのだろうということを考えて、悩んで、胸を苦しめられているような相手だというのに。
 突然、自分の心の中にモヤモヤとした霧がかかったような、なんとも言えない後ろ向きな感情が込み上げてきて胸の奥がざわついた。

「とにかく今はこんな話をしている場合じゃない。後にしよう」
「え……?」
「ボクは弘毅のところへ行ってくる」
「ちょ、ちょっと待って……!」

 私を置き去りにして外へ出て行こうとする新谷を止める。今までのしんみりとした雰囲気は一瞬にして消え、そこにはいつも通りの新谷の姿があった。

「行くって……場所分かるんですか?」
「分かるわけがない。ほら、行くぞ」
「わ、私もですか……?」
「当たり前だろ」
「は、はい……」

 驚くほどにいつも通り。あ、あれ……今、何の話をしていたんだっけ……?
 突然の状況の変化に戸惑っていると、靴を履き扉を開け先に出て行こうとする新谷が背を向けたまま言った。

「心配しなくても大丈夫。もう怖い思いはさせないから」

 そしてパタリと閉まったドアを呆然と見つめる。
 そのまま硬直した状態で動けないでいるとすぐに再び扉が開き新谷が顔を出した。

「遅い。早く!」
「はいっ!」

 私は慌てて外へと飛び出した。
 不覚にも今、少しどきどきしてしまった。

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