もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「なっ……なんだよこいつ。強過ぎる。」
たったの2ゲーム。
たかだか8ポイント取られただけで福井と仁木の呼吸は乱れ切っていた。
「なんだ、もう終わり?」
ラケットを肩に乗せ、そう不敵に言い放つ。
福井はもう完全に戦意を喪失してしまっていた。
「……ったく。準備運動にもならねぇなんてな。」
あろうことか男はラケットを投げ捨てた。
それに仁木よりも早くにキレたのは快太だった。
「なにしやがんだ!!人のラケットだぞ!?」
自分と25センチは違う相手に突っ掛かって行きそうな快太をマッキーが必死で止めていた。
「あ?聞こえねぇよ。文句があるならコート立てよ。」
挑発され、更に熱くなっていく快太。
「やってやらぁ!てめぇのヘボショットなんかちゃんと見えてんだよ!!」
「……やめろ快太。」
完全な実力差。
やる気や熱だけではカケラほども埋まらないほどに、隔絶されたそれを身を持って知り仁木が快太を諭す。
「……あ?だったら返してみろや!」
完全に両方がキレた、その時だった。
「もう止めろトオル。」
コートに響いたその声にトオルが振り返る。
「やっと来たか……翔太。」