もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
コートへと入り、トオルと相対する翔太はトオル以上の威圧感を放っていた。
「あれが翔太の本当の姿か……予想以上だな。」
端からみる幸助が笑う。
「佐野くん、こいつ知ってるのか?」
「うん。五十嵐亨(いがらしとおる)オレの元パートナーだよ。」
翔太の言葉に誰もが驚く。
「……いきなり部を辞めて転校までしやがって、しかもこんな弱小校とはな。」
亨の言葉にも翔太の表情は変わらない。
「今はテニスはやってないんだ。だから、帰ってくれないか?」
柔らかく言った翔太の言葉だったが、亨がキレる。
「あ?オレはてめぇと打つ為にわざわざ来てんだぞ?何ばっくれてんだよ。」
「何と言われ様と、今オレはテニスはしていない。帰ってくれ。」
翔太が意気消沈した福井に歩み寄る。
それを見ていた亨の手がわなわなと震えていた。
「……オレの知り合いが部を乱してしまって、すいません。」
福井を支えて立ち上がらせる翔太。
すると、快太が叫んだ。
「佐野くん危ない!!!!」
翔太の態度で完全にキレた亨が、してはいけないことをする。
後ろ向きで無防備な人に向かって、思い切りボールを打ち込んだのだ。
トスと同時に振り上げられたラケットは、本来ボールが落下してから打つサービスと異なり、投げた直後。
自らの打点に上がったボールを打つ、クイックモーションによって打ち出された。
その間隔たるや、初めて見た部員達は亨が何をしたのかすら分からない。
唯一、その一連の動作が見えていた快太だけが翔太に警告することができたのだった。
「佐野くん危ない!!!!」
ボールは的確に翔太の後頭部へと向かっていく。
パァァァァアン。
大きな音がして誰もが表情を凍り付かせた。
「へぇ、まだまだ鈍っちゃいねぇんだな。」
そこには背後から迫ってきたボールを素手で掴み取った翔太の姿があったのだった。