もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~

翔太はゆっくりと立ち上がる。

そして似合わぬ低い声で言うのだった。

「享、お前はスポーツマンとして絶対にしてはいけないことをした。

ジャケット脱いでコートに入れよ」

翔太の真剣な表情に部員たちは誰ひとりとして言葉を発することができなくなっていた。

「ははは。ようやくその気になってくれたのか、嬉しいぜ。

でもよブランクありありのお前とじゃつまらない、誰か指名して一緒にコートに入れよ」

享はジャケットを脱ぐと投げ捨てるようにしたベンチにかける。

翔太は迷うことなく一人の部員を見た。

その人は誰よりも小さいのに真っ直ぐに享にぶつかり、俺を選べ!と佐野を見つめていた。

「君の力が借りたい。

いや、享に勝つには君の力が必要だ。一緒にコートに入ってくれるかい?快太くん」

翔太の言葉に快太は親指で鼻を擦って叫ぶ。

「あったりめえだ!!」

迷いのない返事。

翔太は嬉しくて笑っていた。

「そんな佐野君・・・快太」

吉野は心そうに二人が享とは反対のコートに入っていくのを見ていた。

そんな吉野の肩を幸助が優しく叩く。

「心配すんな佐野君は恐らく負けない。

でも最悪のことも考えてお前は先生を誰か呼んできてくれ」

吉野は無言で頷いて走っていく。

「無謀だろ。あんな化物に快太みたいな下手くそが勝てるわけがない」

「バカバカしい」

「たかだか部活でどいつも熱くなってんじゃねえよ」

冷めた言葉が部員の間を行き交う。

しかし一人としてコートを離れる者は居なかった。

それは何処かでこれから始まるであろう、自分とは隔絶されたレベルのラリーを一目見たいがためだったのかもしれない。

「ほんじゃあ1ゲーム勝負といこうじゃねえか!」


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