たったひとりの君にだけ
店内にはほんのりと甘い香りが漂っている。
2ヶ月前はメニューは見ないわ、内装を見渡す余裕もないわで見事ブラックリスト入りの失態を犯したせいで、この店のコーヒーしか知らない私だけれど。
きっと、3時のおやつ的な商品も充実しているような気がした。
「ほんっと久し振りだな。ってかどうしたんだよ、こんな早くに」
「あぁ。今日はさ、ちょっと報告に」
「報告?……って、後ろ……え?え?椎名さん?」
けれど、早くも気付かれたらしい。
いや、むしろ気付くの遅いか?
とりあえず、敗北決定。
「……ご無沙汰しております」
「あ、いえ、こちらこそお久し振りです、ってか、いらっしゃいませ!」
至極丁寧に、他人行儀の低姿勢で挨拶すると、つられたのかメガネ君も畏まった。
だけど、その顔には明らかに動揺の色が浮かんでいて、言わんとしていることがだだ漏れだ。
透けている。
類は友を呼ぶとはこのことだろうか。
「充!どういうことだよ!?」
そして、詰め寄る勢いで、とうとうストレートに口にしたメガネ君に対して。
高階君は、笑みの滲んだ吐息を漏らした。
「……こういうこと」
そのまま、彼は繋いでいた手を軽く宙に上げた。
私が、えっ、と戸惑いの一文字を口にしたときには既に遅し。
見上げた彼は、あの日の告白のように穏やかな笑みを浮かべていた。
このとき、私は高階君が私をここに連れて来た理由がハッキリとわかった。