少女達は夢に見た。
もう7月だ。


遅い帰り支度を終え、のそのそとリュックを背負う。


中学校生活なんてあっという間。


小学校一年の頃
一日はとても長かった。

そのときからすでに人見知りだった私は、友達を作ったりするのが苦手で。


なのに、クラスがわかれてしまった柚奈は
もう仲の良い友達を作ってた。


幼いながらに、嫉妬したのをよく覚えてる。


もう、うんと昔の話。


そのときの気持ちは、まだ鮮明に思い出せる。


「一瑠、今日暇?」


さあ教室を出ようかと思ったところで、柚奈が止めた。


ピンときたね。


嬉しくって、舞い上がる。


「うん」


「じゃあさ、遊ぼうよ」

にやけてしまいそうだ。

「うん。」


柚奈と放課後遊ぶなんて、どれくらい振りか。





「なんか結局、柚奈の家になっちゃったね。」


「全然」


外といっても、ここらには遊べるような場所はない。


柚奈の部屋は、私達の定番スポットだった。


暖色系でまとまった、明るくて可愛らしい部屋。

自分の部屋とは雰囲気が全く違う。


本人の性格が、よくでていると思う。


「一瑠さ、律儀に口きかないでいるんだね」


「まあね」


せっかく、久々のゆっくりお話できる時間なのに。


どうして風見君の話なんかしなくちゃいけないんだ。


「そこまで気にしなくても良かったのにさ。」


「あははは」


「うわ、すごい乾いた笑い」


早く話題を変えてほしくて、適当にあしらう。


視線はあわせずに、部屋に目をむけていると、あるものが目に留まった。

本棚にずらりとしきつめたれた漫画の、すこしあいたスペースに


一冊だけ本が入れられていた。


カバーがかかっている。

大きさからして、ライトノベルではないようだ。

手にしてみる。


「ああ、それ?」


「ちょっと見ていい?」

めったに読書なんてしない柚奈が何を読んでいるのか、純粋に気になったのだ。


まだ買ったばかりのようで、折れたあとなどもない。


丁寧にカバーを外す。


「あれ…柚奈この人の本好きだったっけ?」


作者が細川奈津子(ほそかわなつこ)さんだったことにまずおどろく。


私の好きな小説家だ。


しかしこれはまだ読んだことがない。


“ケータイのどぶ川”


…彼女らしいタイトルセンスだ。


たしかかなり前に、私がこの人の“雷の右大臣”と“オーマイリトルマーメイド”をすすめた。


横に立った柚奈を見上げる。


私の手から本を取りあげた。


「“あなたは愚かだわ。自分の心すら偽って、全てを汚した”」


少し大人っぽい声色で、柚奈が言葉を紡ぐ。


記憶の糸をたどると、それははっきりとよみがえってきた。


「“ナト…君にはわからないんだ。純粋は脆く壊れやすい。”」

柚奈に続けて言葉を紡ぐ。

「“そんなのいいわけ。止められたはずよ…あなたなら。”」

私のそれに柚奈が答える。

そこで同時に吹き出してしまった。
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