少女達は夢に見た。
「一瑠めっちゃ棒読みじゃん!!」


「柚奈こそ!そのしゃべり方はだめだって!」


お腹がいたくなるほど笑った。


柚奈に至っては涙を浮かべている。


たのしくってしょうがない。


まさか…柚奈が“リトマメ”を読んでいただなんて。


初耳だ。


呼吸を整えると、


「“左には雨がふっている。あなたの傍ら。”」

柚奈がまた声色を変えて言う。


私の口角があがってしまう。


隠そうとおもっても、変な顔になるだけだ。


柚奈を真似て声を下げる。


「“殺してみせましょう。この空、晴らすため…”」


なんとか思い出せた。


確か8巻。


主人公のライバル東栄と、主人公のセリフ。


柚奈はまた呼吸をあらげて、顔を赤くしながら笑っている。


笑い…よりも、胸がじーんとなった。


嬉しすぎて涙が出そうだ。


「いつのまに読んでたの?」


“リトマメ”だけでも3巻ある。


“雷の右大臣”に至っては10巻完結にもかかわらず、ここまでセリフを完璧に覚えるとは…


柚奈はベットに腰掛け、本を開いた。


「読み終わったのはついこの間だよ。あたしは“雷の右大臣”の方が好きかな。」


「私は……選べない。」

どちらかというと長いお話の方が好きだけど。


「東栄が好きかな。」


あえて敵キャラにいくところが柚奈らしい。


「カエちゃんでしょ。」

私は主人公の付き人カエちゃんが好き。


「雪実も好きだけどね。」


「だったら六田さんが…」


少しの沈黙が流れて。


また、笑ってしまった。

「全然キャラの趣味合わないじゃん!」


指をさすな指を。


なんと言おうと私は絶対カエちゃんおしだ。


あの凛とした感じがたまらない。


東栄も格好いいけどさ。

キャラの好みの違いで熱くなる。


「カエちゃん若葉裏切ったじゃん!」


「かわいいからいーの。」


「はあ!?なにそれ」


ならばと、次から次へと東栄のかっこよさを語りだす。


それはもう早口で。


だけどさ…


「東栄とかホモじゃん」

私の一言にピシャりと固まった。


なにか言おうとしてもつっかえて。


言い返そうにも言葉が思いつかないらしい。


嫌味を込めて笑ってみた。


「いいもん……東栄かっこいいもん…」


時代ものだから美形キャラがそういう扱いになるのは、仕方ない感じするけどね。


東栄は二次創作でも人気だ。


「ホモだっていい!ホモだっていいんだよ!!」


ガッツポーズをして立ち上がる。


「わかった!わかったからやめて、変態」


「うわひどっ。」


ここは北海道じゃないんだ。


住宅街で、下手すれば隣の家に今の声を聞かれたかもしれない。


はずかしいからやめてくれ。


でもまあ…


自分の好きな本のキャラクターをここまで愛して貰えるのは嬉しい。
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