Under The Darkness




「か、勝手に入んな! アンタみたいな不埒なヤツは絶対家には入れん! 悠宇以外の男は立ち入り禁止や! 出てけ! 荷物用意するまでここで一歩も動くな!」


「……またその名前……」


 スッと目を細め、危うい視線を投げてくる。


 ――マズいっ!


 京介君のお腹をドンッと蹴り飛ばし、私はすかさず扉を閉めた。

 鍵もチェーンも掛けて、ホッと息を吐く。


「……あの男はヤバい……」


 玄関先に佇んだまま、ぼそりと呟く。


 ――逃げなきゃ。


 チャンスは今しかないと、私は急いでボストンバッグに手当たり次第に荷物を放り込んでゆく。

 お財布と携帯をポケットに入れて、「ママ、ごめんな!」謝りながら、お仏壇からママの遺影と位牌を鞄に詰めた。

 時間にしてざっと5分ほど。

 そろりと玄関扉の覗き穴から外の様子を窺った。

 柵に凭れるようにして、京介君、スマホを手にタバコをふかしてる。

 ガッツポーズを取った私は、大きなカバンを背中に抱え、名前だけのこぢんまりとしたベランダへと出た。


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