Under The Darkness
舎弟のお兄さんと共に、私はいつもお父さんがいる応接室へと足を運んだ。
扉を開けて「おとうさーん」と呼ぼうとして、固まった。
お父さんの応接室に、探していたママがいたんだけど。
「え。なんで?」
そこには、ママの遺影を見つめながら涙するお父さんの姿があって。
「美里ちゃん?」
お父さん、ハンカチを握りしめながら振り返る。
目の前に広がる尋常ではない光景と、その光景を前に涙するお父さんとを、私は唖然としながら見比べた。
「……な、なんじゃこりゃ」
ママ、遺影の周りが尋常じゃなかった。
なんの祭りなのだと聞きたくなるほどに、花花花で飾り立てられ埋め尽くされていたんだ。
「お父さん、身体大丈夫……ってか、これはなんなんやろか」
「蘭ちゃんには赤い薔薇がよく似合うからね。お供えしてみたんだよ」
「これ、お供えとか言うレベルちゃうよね?」
部屋の半分以上が深紅の薔薇に埋め尽くされていて、もはやママはどこに居るんだろうといった具合だ。
花屋にしてもここまで異常な飾り付けはしまい。
私の背中に冷たい汗が流れた。
「煌びやかなものが似合うからね、蘭ちゃんは。きっと喜んでくれてるはずだよ」
――――いや、絶対喜んでないと思う。
薔薇の花に囲まれすぎて、ママの顔どころか遺影の縁しか見えてない。
でも、その気持ちは嬉しいと思った。
「どうしたの? 美里ちゃん、なんか疲れた顔して」
「つ、疲れてへんよ!? めっちゃ元気やねん! お父さんも元気そうでよかった! あ、それ、ダンベル? そんなんしたらアカンよ。心臓に負担かかるやないの」
「うん。パパ、ひ弱だから。ダンベルは見てるだけなんだ。なにせ、ひ弱な上に病弱だから」
頑強に見える大きな身体を丸めゴホゴホと咳き込みながら、倒れ込むようにして革張りの黒いソファに腰掛ける。
腕を掴まれ、そのままお父さんの隣に座らされた私は、咳き込むお父さんの背中を楽になるようさすってあげた。
「大丈夫? デスク仕事、なにしてるかようわからんけど、あんまり無理したらアカンで?」
「うん。美里ちゃんが傍で看病してくれたら、きっと余命半年も延びると思うよ」
「ええ!? 余命半年!?」
そんな話、聞いてない!
私は驚愕に目を見開く。
お父さん、青白い顔のまま弱々しい笑みを浮かべた。
「美里ちゃんがず―――――っと傍にいてくれたら、きっと100まで生きられる気がする……」
「うっ、ずっと傍に?」
それは難しい。東京にはしばらくいるが、お父さんの傍に四六時中は不可能だ。
ここにいるってことは、京介君の傍にもいるって事。それは耐えがたい。
うんうん煩悶する私に、お父さんはとどめを刺した。