Under The Darkness
「美里ちゃんが傍にいないと、わたしは明日にでも死んでしまう」
悲壮感を漂わせながら、お父さんは私の顔を窺う。
私、脱走しようと決意した心が揺らいでしまいそうだった。
けれど、やっぱり京介君の傍にいるのは怖い。
でも、お父さんの傍にはいたい。
どっちか一方だけの選択は私には出来なかった。
「……ぐう。お父さんと毎日会えたら、それでええ?」
「そりゃ毎日会うにきまってるじゃない」
「うん、そうやね」
毎日時間を作ってお父さんに会いに行こう。
京介君の居ない時間を見計らって。
私が出来ることってそれくらいしかないから。
そう決めた私は、顔を上げて当初の目的を口にした。
「あんな、電話貸してもろていいかな?」
お願いしますと頭を下げる。
お父さん、途端にデレンとした顔つきになり、もの凄い俊敏な動きをしたかと思うと、デスクにある電話を私に差し出してきた。
「使って使って。でも、携帯持ってこなかったの?」
「うん。忘れてもうたみたい」
「じゃあ、これあげる。美里ちゃんにあげようと思って用意してたんだよ」
そう言うと、お父さんは机の引き出しからまだピカピカなスマホを取り出した。
「うわっ! ええの!? スマホ、格好いい!」
「これでいつでもどこでもパパとメールやらラインやら電話やらで遊べるからね」
これは特別に作らせた美里ちゃん専用の特注品なんだと嬉しそうに、パパの番号はコレで、ラインはここね? と教えてくれる。
「でも、ええの? こんな高価なモンもろて」
嬉しいものの、高価なものという認識はあるので恐る恐る尋ねてみる。
そうしたら、お父さん、感極まったとばかりにぎゅっと抱きしめてきた。
「それはもう美里ちゃんのものだよ! こんなものが高価だなんて、なんて謙虚な娘なんだろう! そんなところまでも蘭ちゃんそっくり! 蘭ちゃんっ!!」
お父さん、違う違う。私、似てるけどママ違う!
お父さんの分厚い胸に顔を押しつけられて、もはや窒息状態な私。
「よし! おいしいものいっぱい食べに行こうね! ふたりっきりで銀座行く? 丸の内にもいい料亭があるよ。和洋中、なにがいい?」
今から連れて行かれそうな雰囲気に、私は焦りまくってお父さんの背中をバンバン叩いた。
「ああ、ごめんごめん。力が強すぎた? ……可愛いなあ」
デレデレと嬉しそうに笑み崩れるお父さんに、私はカッと牙を剝いた。
「ぶはっ、三途の川見えたわ! ちゃうねん、今からは行かれへんねんっ」
「え? どうして?」
しゅんと項垂れ泣きそうな顔をするお父さんに、申し訳ない気持ちになる。
けれど、ここで心を鬼にしなきゃ、もう二度と脱走のチャンスは巡ってこないかも知れない。
ごくりと唾を飲み込んだ。
「お父さん、あんな、ちょっと相談あってな」
「ん? なんでも買ってあげるよ?」
「え? ちゃうちゃう、そんなんちゃうよ。あんな」
あの猛者なお兄さん達を捲くためには、どうしても協力が必要だった。
私は覚悟を決めると、お父さんにも協力してもらおうと口を開いた。