Under The Darkness
「……それは反対だよ、美里ちゃん」
お父さんに脱走の協力をしてもらおうとお願いしたんだけど。
お父さんは眉尻を垂れた情けない顔で、それはダメだと頭を振る。
けれど、私も引き下がるわけにはいかなかった。
「でもな、事務所で部屋借りてもらうことになってるんよ。京介君がおらん時に、お父さんにだけ会いに来るから」
「え? わたしにだけ? パパは京介よりも特別? 嬉しいっ!そうだ、じゃあ、わたしが持ってるマンションにいればいい。舎弟も置くし、ここからは目と鼻の先だし。京介なんて近寄らせないよ。だって、パパは美里ちゃんの特別だから。もちろん家賃も要らないし、なんだったら気に入ったマンション買ってあげるし」
「……いや、それはええわ。遠慮する」
まるで愛人を口説くようにして、私をモノで釣ろうとするのはやめて欲しい。
私、そんなものに魅力は感じないしいらない。
私は頭を振ってNOと返した。
「危ないよ、美里ちゃんは超絶に可愛いから心配だよ」
お父さんも私に負けずに頭を振って、ダメダメと私の顔を覗き込んでくる。
「ありがとう。でも、ここにはおれんのよ」
「なんで、」
「なんでも! 理由は聞かんといて!」
「はは、はいっ」
理由を聞こうとしたお父さんに被せるように声を荒げる。
お父さん、私の剣幕にビビって直立不動になってる。
でも、聞かれても答えられないんだよ。
貴方の息子、私の異母弟に抱かれてしまったからです。
このまま傍に居たら、京介君に慣らされた挙げ句流されてしまいそうで怖いんです。
なんて、死んでも言えない。言えやしない。
思い出すだけで心拍数が一気に跳ね上がってゆく。