Under The Darkness




 お父さんにグイッと押されて、植木の影に隠される。

 敵ってまさか抗争的なヤバい感じのヤツなのかと、波打つ心臓を掌で押さえながら、戦々恐々、枝の隙間から様子を窺った。


 ――え、バイク?


 腹に響くほどの爆音を轟かせながら、裏口から黒の大型バイクが入ってくる。

 私の目は、バイクに吸い寄せられるようにして釘付けになった。


 ――あれは、あのバイクはっ!……APRILIAのRSV 1000R FACTORY!! シャープな黒のボディ、車体に入るゴールドのライン、なんて格好いいっ!!


 羨望の眼差しでバイクに見とれていた私は、ギクリとした。

 私の憧れ、APRILIAのバイクに跨がるのは、漆黒のライダースーツに身を包んだ京介君だったんだ。


「父さん? 貴方、こんな所で何してるんですか」


 バイクと同じく黒のメットを外しながら、京介君は怪訝な目をお父さんに向ける。


「うん。愛人の所にでも行こうと思ってね」


「またですか。もう弟やら妹やらは要りませんからね」


 その言葉に、『え? 私、もしかしてまだ弟やら妹やらいたりするの!?』と驚愕の目をお父さんに向ける。


「うん。わたしには美里ちゃんが居ればそれでいいから」


「……いくら蘭奈さんに似てるからと言って、手を出そうなどしたら。親でも容赦しませんよ」


 ――ないない。それはないよ京介君。


 京介君の斜め上を行く見当違いな威嚇の言葉に、私は植木の影でププッと嗤う。

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