Under The Darkness




「……死にたいんですか?」


「美里ちゃんは、やっぱり京介にはもったいないよねえ。DNA鑑定で確かに美里ちゃんは私の娘だったわけだけど、子供出来ないようにしたら別にいいんじゃ、……ぐふっ」


 ――え? なんて言ってるの?


 眉間に皺を寄せながら耳を澄ますんだけど、小声で話すお父さんの話がちっとも聞こえてこない。

 すると、いきなり京介君が、無言でお父さんのお腹に重いボディブローをねじ込んだんだ。


 私は驚いて思わず飛び出しそうになる。

 何を言ったか知らないけれど、あんな重いボディブロー、病み上がりな上余命宣告を受けている人間にヒドすぎる仕打ち!

 でも、飛び出すわけにも行かず、私はドキドキしながら状況を見守るしかなくて。

 綺麗に選定された馬酔木《あせび》の群生を前に身を潜めながら、掌に触れる長細い葉をギュウッと握りしめた。


「その邪な考えを行動に移そうなどしたら。……殺す」


「……それでこそ我が息、子……」


 地の底を這うようなおどろおどろしい京介君の声を聞きながら、お父さんはガクリとその場に蹲ってしまった。

 京介君は倒れ込んだお父さんを無視すると、バイクスタンドを外し、再びバイクに跨がった。そして、広大な庭から車庫に向け轟音を立てて走り出してしまう。

 京介君の姿が消えたのを確認すると、私はお父さんに駆け寄った。

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