Under The Darkness




「……盗み聞き、やらしいなあ」


「後ろにいたんです。嫌でも聞こえます。それに、聞きたいこともあったので」


 手にしていた受話器を乱暴にガシャンッと置く。

 話しているのを切るなんて、意地悪だし非常識だと思ったのだ。

 怒りを声に乗せて、文句を言ってやる。


「なんなん、自分。めっちゃ腹立つ」


「で? 何があったんですか?」


 非難の声を無視されて、舌打ちが漏れそうになる。

 話し中の電話の電源を落としてまで、それがそんなにも気になることなのか。

 私はわざとらしい溜め息を吐いた。


「……うっさいなあ。ただの痴漢や」


 痴漢。ただ、それだけ。


 私はこれで終わりだと、話を切り上げたかった。

 与えられた部屋に戻ろうと、無言で踵《きびす》を返す。

 視線の端で捉えた京介君の切れ長な双眸が、少しだけ切なさを帯びてすうっと細くなる。

 え? と、思わず振り返った。




「……私には何も話してくれないですね」


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