Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「そんなことさせないわ」
そうメオラが言い切ると、意外なことに、ラシェルも「もちろん、そんはことはさせない」と頷いた。
「おれがリヒターやイロを説得する。エルマがルドリアを演じる必要がなくなれば、できうるかぎりの礼をして、三人とも必ず無事でアルに帰すと約束しよう」
予想外の言葉に、メオラはラシェルの顔をまじまじと見つめる。
ラシェルの金の瞳はまっすぐにメオラの目を見ていた。
彼が王の血を引いているという唯一の証である、金。
そこには一点の曇りもない。
この人は嘘をついていない。
そのことが、呼吸をするように当然に、すとん、と胸に落ちた。
でも、そんな直感だけで信用してもいいものか……。
「……一応は、その言葉を覚えておくわ」
迷ったすえに返したあいまいな答えに、それでもラシェルは嬉しそうに笑って頷いた。
「それだけ言いに来たんだ。じゃあまた」
メオラの肩に置いた手をはなして、ラシェルはそう言うと背を向けて歩き出した。
メオラは慌てて声をかける。
「あ、あの、ラシェル殿下!」
振り向いたラシェルの顔を見てすこし微笑み、メオラは言った。
「さっきは、助けてくれてありがとう」
ラシェルはにっと笑うと、「いや、無事でよかった。あとさあ、呼び方、『殿下』いらない」と言い、今度こそメオラに背を向けて去っていく。
つまりは、ラシェル、と呼べと。
「こっちは侍女よ? それは無理があるでしょう……」
ラシェルの背中を見送りながら、メオラは小さく呟いた。