愛を知る小鳥
「香月さん、警察から電話よ」

「…えっ?!」

全く予想だにしない先から連絡を受けたのは、バイト先に最後の出勤をしていた日のことだった。


『 お母様が事故でお亡くなりになりました____ 』


電話口で聞こえてくる言葉を理解することができなかった。
何を言ってるのだろうか? 夕べ母と物心がついてから初めて笑いあえたというのに。

死んだ? 誰が?
一体何を言ってるの?


その当時母には交際中の男性がいたらしい。再婚を真面目に考えていて、私が独立して落ち着いた頃に入籍をと前向きに考えていたとか。その男性と出かけていた先で反対車線から突っ込んできたトラックとの正面衝突により即死した。

何も知らなかった。
母に付き合っている男性がいたことも、再婚を考えていたことも。
もしかしたら近いうちに話すつもりだったのかもしれない。
でも母はいなくなってしまった。
あの笑いあった日を最後に。


それから葬儀やその後の膨大な手続きなど、大変だったはずのことのほとんどが記憶に残っていない。皮肉にも母が死んで初めて顔を合わせた交際相手の男性が、弁護士に依頼してあらゆる手続きを助けてくれたということだけは覚えている。葬儀の時に自分がどうしていたのかも、記憶を辿っても思い出すことはできない。
ただ、勘当された母の両親が来ることは最後までなかったということだけははっきりしていた。

全てのことが終わった後、男性は何かあったらいつでも声をかけて欲しいと言ったけれど、世話になるつもりは微塵もなかった。もともと自立する予定だったのだ。母がいなくなってしまったからといって、今更何かを変える必要もない。それに、会ったこともない男性と一緒にいて得ることなどないと感じていた。

いや、もしかしたらその男性を拒むことで何とか自分を奮い立たせたかったのかもしれない。あの時一緒にいなければ母は死ななかったかもしれないと。
いつか母が自分を恨むことで自分を保っていたように___
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