愛を知る小鳥
「はぁはぁはぁはぁっ…!」
右も左もわからないまま走った。
ひたすら走って、走って、走って。
いつ後ろから伸びてくるかわからない手から必死で逃げた。
「はぁはぁはぁ…」
どれくらい走ったかわからない。
気が付けば見たこともないような景色が広がっていて、あまりの苦しさに呼吸もままならない。恐怖に戦きながら恐る恐る振り返ると、そこには何の気配も感じられなかった。ほんの少しだけ全身から力が抜けたかと思うと、一気に震えが走った。ガタガタと体が揺れる。
どこにいるか検討もつかないが、歩き回って見つけた公園にあったトンネルの中に身を潜めた。誰も来ませんようにと恐怖に震えながら。膝を抱えて座り込んだ瞬間、ボロボロと涙が溢れ出す。バケツをひっくり返したと思える程あり得ないくらいの量が。それに比例して体もブルブルと震えが止まらない。
彼は一体誰…?
どうしてこんなことに?
彼は初めからそのつもりで私に近づいたの?
それとも私の甘えが彼をそうさせてしまったの?
わからない、わからない、わからないよ…!!!
ただわかることは自分が慕っていた彼はもうどこにもいないということ。
母もいなくなった。
唯一慕っていた彼もいなくなってしまった。
目を開いても目の前は真っ暗な闇。
月さえ雲に隠れてしまった。
底知れぬ恐怖と絶望の中、涙と震えの止まらない体を抱きしめながら、美羽は暗闇の中でひたすら小さくなって夜が明けるのを待った。