愛を知る小鳥
「…あの、どちらへ?」

潤のことで大事な話があると言われ、彼のことと言われれば無視することもできず、言われるまま薫の後をついてきた。

「私、休憩用の部屋を取ってもらってるんです。そこなら私たちしかいませんし、込み入る話でも周りを気にせずできますから。そちらへ」

「…そんなに大事なお話なんですか?」

「……」

薫はそれ以上何も言わず廊下を進んでいく。やがて一つの部屋の前で立ち止まる。

「こちらです。どうぞ」

先に入っていく薫の後ろ姿を見ながら美羽は迷う。このままついていってもいいものだろうか。彼には何も言わずに来てしまった。
だが彼女の言っていたことも気になる。今の彼女からは何かしそうな気配は感じられない。それにあの男と繋がっているようなことも考えられない。
小さく深呼吸すると、美羽は意を決して部屋の中へと歩みを進めた。

「ソファーにどうぞ」

「…はい。失礼します。…それでお話って?」

窓際に立ったまま外を見つめる薫に問いかける。

「あれから…あの後、私彼にこっぴどく叱られたんです。秘書に手を出すなんてどういうつもりだって」

「…」

「やるなら俺をやれって言われました。気が済むまでとことん付き合ってやるって。だから言葉に甘えて思う存分我儘をぶつけたんです。彼はそれを全部受け止めてくれました。…朝まで」

「…え?」

どういうこと…? 彼女は何が言いたいんだろうか。
ゆっくりと振り返った薫の瞳は先程までとは別人だった。とても強い、あの夜を彷彿とさせるようなギラつきを宿していた。そしてニッコリと真っ赤なルージュで弧を描きながら言葉を続けた。

「そのままの意味です。雨降って地固まるっていうか。喧嘩した分だけもの凄く燃え上がったの。彼ってああ見えて結構激しいから」

ゆらり、ゆらりと瞳の奥に燃える炎が見える。
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