愛を知る小鳥
帰路につくタクシーの中で潤は色々なことを考えていた。

まずは美羽を突き落としたであろう薫。直接接触していないはずの薫の香水の匂いがついていたことを考えても、薫が美羽に何かしたことは間違いないはずだ。
関係をもつ際に何度も釘をさしていた「深入りしない割り切った付き合い」「どちらかが終わりと言ったらそれを受け入れる」そのルールに明らかに違反している。
しかも何の非もない美羽にまで手を出していることに潤はこの上ない憤りを感じていた。

これまでも自分を取り巻く女の間でのいざこざは何度もあった。そういうことにいい加減うんざりしていたこともあって全ての関係を切ったのだが…自分が思っていた以上に愚かな女だったらしい。

昔から女に困ったことはない。
だが満たされたこともない。

自分に寄ってくるのは見た目と肩書きに引き寄せられるような女ばかり。
相手が本気じゃないのだからこちらはこちらでと、ルールを作った上で深入りしない付き合いばかりをしてきた。上辺だけの女達はいつも顕示欲を剥き出しにして互いにいがみ合っていた。己の欲にしか関心のない女共の争いなどこれまでは放っておいたのだが、何の関係もない美羽にまで手を出すとは。
ルール違反をしているとはいえ、己が引き寄せた女の不始末で怪我をさせてしまったことに強い罪悪感を感じていた。

金輪際一切会うつもりもなかったが、一度釘を刺しておく必要がありそうだと潤は強く思った。
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