明日、嫁に行きます!



 鷹城さんに抱き竦められるまま、私は彼の身体にもたれ掛かる体勢で、感じる温かな体温に『どうしようどうしよう』とグルグル惑乱していたんだけど。
 首筋に触れる彼の吐息に痺れるほどの甘さを感じてしまい、バクバクと高鳴り続ける心臓が口から飛び出てきそうになる。
 このままじゃ、熱に浮かされた頭がとんでもないことを口走ってしまいそうで怖かった。

「た、鷹城さん、も、そろそろ……」

 離して? と懇願する。

「……ええ。落ち着きました」

 唇が首筋にキスするように触れ、そして、離れた。
 少しそれが寂しく思えてしまうのは、きっと頭と心が鷹城さんの大人な魅力に酔ってしまったせいだ。
 力の抜けた足を支えるようにして鷹城さんが手を貸してくれる。顔を優しげに綻ばせた彼に、心臓の鼓動が一際大きく音を立てた。

 鷹城さんが扉にかかった鍵を開け、そして、扉を開けたんだけど。
 瞬間、お母さんとサラが雪崩れるようにして倒れ込んできた。
 お決まりな行動を取る家族達に、私は「あのね……」と、呆れた声が出てしまう。

「ごめんなさい、お邪魔しちゃいましたね? ふふっ。あ、初めまして、鷹城さん。あたし、妹のサラでーす」

 ペコリと頭を下げるサラに、鷹城さんは、

「初めまして。鷹城と言います。お母様と寧音にそっくりですね」

 驚いたように目を瞠り、ニコリと営業用の笑顔をみせた。

「はい。うちは6人キョウダイみんな美形なんです」

「ええ。お母様を見ていたら分かりますよ」

 鷹城さんのお世辞の言葉に、でしょ? と、サラは小首を傾げて同意した。邪気のないサラに、鷹城さんはくくっと喉の奥で愉しげに笑うと、

「すいませんでした。寧音は僕が連れて帰ります」

 丁寧な仕草でお母さんへと頭を下げた。

「いいのよー。またいつでも、今度はふたりでいらっしゃいね」

 お母さんはニコニコと微笑んで、私にパチンとウインクを寄越してくる。

 ぎゃーっ! そんな不自然な行動ヤメて!

 蒼白になる私の腰に手をまわした鷹城さんは、ニヤッと黒い笑みを浮かべて言った。

「はい。改めて、今度はふたりで、きちんとご挨拶にうかがいます」

 微妙な言い回しに引っかかって『ん?』と首を傾げてしまう。
 意味深なセリフを吐いた鷹城さんと共に、私は拘束されるようにして家を出たのだった。



 家族に見送られながら、私達は車に乗り込んで本社へと向かったんだけど。
 社長室へと足を踏み入れた瞬間、私、もの凄い勢いで徹くんに怒鳴られてしまった。

「何してやがんだオラッ!! しゃちょー振り回してんじゃねえよ、ふざけんなこのガキがッ、あ゛あ゛っ!?」

 口を挟む余地もないほどに一気に捲し立てられて、足に根が生えたようにカチンと固まってしまう。可愛い系だと思っていた徹くんの凶悪なまでの変貌に、『昨日の彼と同一人物か!?』と、私は目を疑った。
 徹くんに罵詈雑言浴びせかけられている間、(なんで私が罵倒されねばならんのだ?)鷹城さんはたまった書類に目を通していたんだけれど。
 チラチラこちらに視線を投げる度、鷹城さんの双眸がイライラと曇ってゆくのが怖かった。

「と、徹くん? あのね、怒られるのは仕事ほっぽった鷹城さんじゃないの?」

 怒り心頭を発す状態の徹くんに、ビクビクと至極もっともな意見を口にするんだけど。

「はあ!? あの人怒れるわけねーだろが!」

 バカだろお前!? と、怒鳴り返されてしまう。
 それって単なる八つ当たりなんじゃ……。

「今度総兄のリズム崩すような行動とりやがったら――――本社屋上から真っ裸で吊してやる」

 ヒ――――ッ! 怖いっ、この怖い人はダレですか!?
 高所恐怖症なの知ってて地上400メートルに吊すとか言いやがりました! しかもマッパで!! どんだけドSなんだ、徹くん!?
 しかも、徹くんのご面相が殺人鬼も真っ青になるほどに極悪非道なんですが!
 泣きそうになりながら固まる私を横目に、鷹城さんは堪忍袋の緒が切れたとばかりに暗雲立ちこめる低い声で、徹くんに凄味を利かせて恫喝した。

「……徹、いい加減にしろ。それ以上は許さない」

 徹くん以上に黒くて狂暴な雰囲気を漂わせ、鷹城さんはひたと彼を見据えている。その姿は、まさに悪の帝王そのもので。

 怖っ! この人達、真面目に怖いっ! 

「はーい、総兄」

 鷹城さんを振り返り、コロッと態度を一変させた徹くんは、お利口な返事を返す。そして、また私に顔を戻したと思ったら、

「……次やったらブチ殺ス」

 徹くんは、鷹城さんに向けた顔とは真逆な鋭利なナイフを思わせる極悪面で、殺人予告をしてきたのだった。



 
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