明日、嫁に行きます!





 私の脱走? 騒ぎ以降、大学帰りには必ず鷹城さんか徹くんが迎えに来るようになった。
 鷹城さんの補佐を無事遂行するためのお出迎え、という名目で。
 普通、バイトに送迎はないだろう。電車で通える距離なんだし。ひとりで本社まで行くと主張してみても、鷹城さんは頑として譲ってくれなくて。
 だから今日も、唯々諾々とお迎えを待つしかない私だった。
 大学の門の前でいつものように迎えを待っていたら、ポンと肩を叩かれた。

「寧音、この後一緒にカラオケいかね?」

「なんだ浩紀か。行きたいけど無理。この後バイトに強制連行されちゃうんだ」

 はーっと盛大な溜息が漏れる。
 そんな私に、浩紀はイタズラな笑みを浮かべながら、

「じゃ、ブッチしちゃえ」

 なんて、無責任極まりないことを囁く。

「イヤだよ、そんな約束破るみたいな真似。それに、前に一度学校帰り家に寄ったら、血相変えて鷹城さん飛んできたんだから。逃げたと分かったら絶対とっ捕まえられる」

 久しぶりに家族に逢いたいなあって思っただけなのに、鷹城さんってば仕事ほっぽって家まで飛んで来た。
 そして、自宅滞在時間およそ1時間ほどで、私は現行犯逮捕された犯人よろしく本社まで強制連行されてしまったのだ。しかも、彼の秘書、徹くんにしこたま罵倒された記憶はまだ新しい。怖くてブッチなんて真似、絶対出来ない。屋上から真っ裸で吊されるのもブチ殺されるのもまっぴらゴメンだった。
 逃げだすかもしれないと疑われて、あれからずっと学校帰りは速攻鷹城さんの元へと連行されてしまうようになったんだから。
 私はむっつりと唇を尖らせた。

「……ふーん。寧音、愛されてるねえ」

 不機嫌そうに浩紀がボソッと呟く。

「は? あれは愛なの?」

 あれが愛だとしたら、かなり重くてイヤだ。
 でも、そんなガチガチに拘束してしまうのが愛ゆえの行動だとしたら。そう考えた時、なんだか嬉しく思ってしまう自分がもっとイヤ。
 私はそんな変態的思考の持ち主ではないと頭を振って否定してみた。

「寧音の話だと、大会社の社長で女にモテて、仕事も容姿も超完璧。なあ、全然お前のタイプっぽくはないんだけど」

 宗旨替え? なんて、探るようにして睨まれる。浩紀の不穏な目に射貫かれて、私はうっと仰け反ってしまった。

「た、鷹城さんは完璧に見えるだけで普通の人だよ。ダメダメな所も多いけど」

「なんだ、あのイケメン、ダメダメなのか。確かに、寧音は昔っからダメ男ばかりに引っかかってたからなー」

 納得したと浩紀は大仰に頷いてみせる。
 完璧男だと疑問を感じ、ダメ男だと納得するってどういうことだ。
 ムッとなる。でも、その通りだなと冷静に思い、しょんぼり肩を落としながら頷いた。

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