明日、嫁に行きます!
「空しいわね。実家が有力な後ろ盾になるから、自分を選ぶですって? 貴女、今、自分で自分を貶めたって気付かないの? 実家とかそんなもの関係なく、なんで貴女自身がいいって言ってくれる男を選ばないの。貴女の価値はそれだけしかないの?」

 私が放った言葉に、彼女はカッと両眼を見開いた。

「貴女ごとき下賤な女に何がわかるというの!? 望まれるべきはわたくしなのよ! なんの教養も、知識もない貴女じゃない!」

 いきなり掴み掛られて、頬を叩かれた。鋭い音が薄暗闇に響く。
 華奢な彼女の一体どこにそんな力があるのかと思うほどの強い力だった。

「……はっ。下賤な女で結構よ。知識も教養もある高見沢さん? そんなご立派な貴女は、今や鷹城さんに付き纏うストーカーじゃない。まずは自分の姿を顧みなさい」

 ――――少なくとも。私は、今の貴女よりはマシよ。

 侮蔑の眼差しを向けて言い放つ。
 口の中に鉄の味がじわりと広がる。血の混じった唾をペッと吐き捨てた。

「貴女など……貴女などに……!」

 怒りにぶるぶると体を震わせる彼女に、私はもう一度言ってやる。

「鷹城さんに好かれたいなら、まず貴女自身に惚れさせなさい。実家なんかの後ろ盾なく、ね」

 ――――それができないなら、諦めることね。

 最後にそう言い捨てると、逃げるが勝ちとばかりに、その場に彼女を残した私は、駅まで一目散に駆け出した。

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