ヴァニタス
変わった人だなと、思った。

崖っぷちのこの場所でのハットやジャケットや革靴は、この町に住んでいる刑事さんなのかと聞きたくなる。

それだけでも充分変わっているのに、私の命を俺にくれとか、家政婦として俺と一緒に住めとか…変わり過ぎにも程があると思う。

この人が変わり過ぎてるから、自殺する理由を忘れてしまった。

忘れた、けど…ここから立ち去りたくない。

「――いい、ですよ」

私は返事をした。

「えっ?」

私の答えに、彼が驚いたと言うように聞き返した。

「あなたの家政婦として、余生を過ごしてもいいですよ」

ここから立ち去りたくないから、言った。
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