ヴァニタス
私は武藤さんの前から動くことができなかった。

武藤さんも、私の前から動こうとしない。

私の背中には、武藤さんの大きな手。

この手は、一体何なのですか?

どうして私の背中に添えられているのですか?

自分の背中に添えられた好きな人の手を、私はどうすることもできなかった。

こう言う場合って、振り払えばいいの?

振り払うって言っても、武藤さんの手だから…私にはできないよ。

悶々となっている私に、
「――果南」

武藤さんが、私の名前を呼んだ。

「――えっ…?」

私は驚いて聞き返した。

今、私のことを“果南”って呼ばなかった…?
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