ヴァニタス
クロエさんは話過ぎたと言うように、息を吐いた。

私たちの間に流れた沈黙を、規則正しい波の音が埋めていた。

その沈黙を破るように、
「――武藤さんは、今でも病気で苦しんでいるんですか?」

私はクロエさんに話しかけた。

「――手術は成功したけど、再発の恐れがあるって医者に言われたの。

ムトウは医者から処方された薬を飲んで、再発を押さえているわ」

クロエさんは私の質問に答えた。

「薬を飲んで、ですか…?」

呟くように言った私に、
「本当に、あなたは何も知らなかったのね」

クロエさんが言った。

彼女に言われた悔しさは、私の中にはもうなかった。
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