ヴァニタス
泣いている私の声を隠すように、規則正しい波の音がおおった。

「――あなたは、強い人なのね」

波の音をさえぎるように、クロエさんが言った。

私は隠していた両手を外すと、クロエさんに視線を向けた。

「顔がひどいわ」

クロエさんは呆れたように息を吐くと、私にハンカチを差し出した。

私はクロエさんの手からハンカチを受け取ると、泣いたせいで濡れてしまった顔を拭いた。

「ハンカチは返さなくて結構よ」

クロエさんはそう言った後、海の方に視線を向けた。

「武藤さんに、命を助けられたことがあったんです」

私はクロエさんに話しかけた。

「命を助けられた?

まるで、あなたが死にかけたみたいな言い方ね」

クロエさんは驚いたと言うように聞き返した。
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