ヴァニタス
月明かりだけが照らす真っ暗な部屋で聞こえるのは、お互いが呼吸をする音だけだった。

こんなにも近くで呼吸をする音を聞いたのは、後にも先にも今日が初めてだと思う。

武藤さんは私を愛してくれているのだと思うとただ嬉しくて、私の目から涙が止まらなかった。

「――果南ちゃん…」

武藤さんが私の名前を呼んだ。

私の頬を伝っている涙を、彼の親指が優しくぬぐった。

「――武藤さん…」

私は武藤さんの名前を呼んで、涙をぬぐっているその手をつかんだ。

ギュッ…と、離さないように手を繋いだ。

そっと握ったら、握り返してくれたことが嬉しくて、私は嬉しくてまた涙をこぼした。

お互いの躰を流れている汗は、どちらのものなのかはわからない。
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