ヴァニタス
好きな人に抱かれることがこんなにも嬉しいことだったなんて、私は知らなかった。

死んでいたら、私は知らないままだった。

生きていてよかったと、私は心の底から思った。

武藤さんが好き。

武藤さんを思っている。

赤の他人である私のために涙を流してくれたこの人をが好き。

赤の他人である私に生きることを切望してくれたこの人を思っている。

それはもう深く、深く…武藤さんを思っている。

好きな人と手を繋ぐことは、こんなにも嬉しいことだった。

好きな人と躰を重ねることは、こんなにも嬉しいことだった。

私は武藤さんの背中に自分の両手を回した。
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