ヴァニタス
私は10枚の10円玉を緑色の公衆電話のうえに置いた。

受話器を持つと、深呼吸をした。

落ち着け、私。

10円玉を1枚入れると、実家の電話番号を押した。

忘れていると思っていたけど、躰はまだ覚えていたみたいでホッとした。

受話器を耳に当てると、
「はい、もしもし?」

そこから聞こえた懐かしい母の声に、私は涙が出てきそうになった。

泣くのは後だと自分に言い聞かせると、
「――もしもし…私、果南です」

私は自分の名前を言った。

「――果南…?」

母は驚いたと言うように私の名前を呟いた後、
「果南なの!?」

叫ぶように、私の名前を呼んだ。

久しぶりに自分の名前を呼んでくれた母に、私の目から涙がこぼれ落ちた。
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