ヴァニタス
「――武藤さん」

私は武藤さんの名前を呼んだ。

武藤さんの顔が私に近づいてくる。

私はそっと目を閉じた。

目を閉じたとたん、今日までの武藤さんとの日々が頭に浮かんだ。

自殺をしようとした私を止めて、同居を始めた日。

悪魔から私を守って、生きることを切望した日。

武藤さんの秘密を知ってしまった日。

武藤さんに思いを伝えて、結ばれた日。

自分のことを投げ出して、私のために悪魔と戦ってくれた日。

私と結婚するために一緒になって頭を下げた日。

そして、武藤さんと夫婦になる今日。

今まで過ごしてきた日々を思い返していた私の唇に、武藤さんの唇が触れた。

――愛しています、武藤さん

口では言えない今、私は心の中で武藤さんに愛の言葉を言った。
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