夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「一体どうされたのでしょう」ユリさんは、嘆息する。「心配です」
 「ふむ」ぼくは、眉根を寄せる。「ユリさん。他に、ヒロコに変わったことはありませんでしたか?」
 「そうですねー」ユリさんは少し首を傾げる。「思い当たることといえば、先生らしくないミスを、よくされるようになりました」
 「ミス、というと?」
 「前回と同じ授業を始めようとしたり、小テストの採点を間違えたり、というようなことです」
 「ふむ。確かに、ヒロコらしくありませんね」
 「そうなのです。カドカワさんは、何か知っていませんか?」
 ぼくは、首を振る。
 「残念ながら」
 「そうですか」
 ユリさんは、悲しそうに眼を伏せた。
 一体、ヒロコはどうしたというのだろう。心ここにあらずといった様子からして、何か悩みを抱えているようだが。とすれば、一体、どんな悩みだというのか。ヒロコの豪胆な性格を考えるに、もしかしたら、ぼくにも言えないような深刻な悩みなのでは―
 「カドカワさん」
 ユリさんの声が、ぼくの思考を遮った。
 「な、何ですか?」
 「一つ、お願いを聞いてもらってもいいですか?」
 「お願い、ですか」
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