夜明けのコーヒーには 早すぎる
　生徒の名前はユリ。
　そのユリのメールを読み、「あっ！」ヒロコは思わず、驚きの声を漏らしていた。
　「忘れてた！」
　というヒロコの叫びが物語るように、ヒロコはユリが今日訪ねてくることを、すっかり失念していた。
　大慌てで部屋の掃除をするヒロコ。だが、そのせいで、ユリへの返信を忘れてしまう。
　何とか部屋が片付いた頃、ピンポーンという呼び鈴が鳴った。
　急いでドアに駆けて行き、覗き穴で訪問者を確認する。
　長い黒髪、清楚な白い服装、色白の肌に真っ赤な唇。絵に描いたような大和撫子なその少女―ユリが立っていた。
　「こんにちは、ユリさん。早かったわね」
　ヒロコはドアを開き、ユリを出迎えた。
　「こんにちは、カトウ先生」
　ユリは深々とお辞儀をする。
　「どうぞ、上がって」
　ヒロコはユリを部屋の中へ招いた。
　「はい。お邪魔します」
　流れるような動作で、ユリは部屋に上がる。
　ヒロコの淹れたコーヒーを啜りながら、二人は思い出話しに花を咲かせた。

　ユリとヒロコが初めて会ったのは、入学式の日。ヒロコが受け持ったクラスの中に、ユリはいた。
　以来、三年間に渡ってヒロコはユリの担任だった。
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表紙・目次

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