夜明けのコーヒーには 早すぎる
 ユリは才色兼備の見本の様な生徒だったが、同時に努力家でもあった。ヒロコもよく勉強を教えてくれと頼まれ、自宅で教えたのも決して少なくない。
 ユリがヒロコの電話番号や、住所等を知っているのは、その事に由来してのことだった。
 今日、ユリがヒロコを訪ねたのは、「卒業前に先生とゆっくり話したい」というユリの要望を、ヒロコが快く承諾したからであった。

 「色々あったわねー」
 ヒロコは頭の中で、ユリとの三年間を思い出しながら言った。目尻が少し熱くなる。
 「はい」
 ユリは頷き、眼を伏せた。
 「二十歳になったら、お酒呑もうね」
 「ええ。是非」
 時間はゆったりと流れる。
 二人は、時々途切れる会話の間も、心地のよい沈黙に包まれていた。
 窓から差す日の傾きだけが、時間が経っていることを証明している。
 やがて、窓から差す日が、黄金色から朱色へと移っていく。
 「好きです」
 夕陽の眩しさに、眼を細めていたヒロコの耳に、微かだがはっきりとその言葉が入ってくる。
 スキデス?頭の中で反芻させるが、咄嗟には理解が出来ない。
 ヒロコはユリを見やった。
 ユリはほんの少しだけヒロコに擦り寄り、「好きです。愛しています」と真っ直ぐにヒロコを見据えて言った。
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