夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「成る程」ぼくはホッケを摘まむ。「ユリさんはもうすぐ卒業します。その時、ヒロコとユリさんは、教師と生徒という関係ではなくなるわけです。それを想像してみて下さい」
 ホッケが美味い。ぼくはもう一度ホッケをつまんだ。
 ヒロコは腕を組み、眼を閉じて考え込んでいる。
 ぼくはホッケを楽しみながら、ゆっくりとヒロコを待った。時間は無限ではないが、ヒロコが悩み抜くぐらいはあるだろう。
 「わたしは―」ヒロコが眼を開けて、ぼくを見据える。「世代を越えて、友達になれると思う。いいえ―」ヒロコは、首を横に軽く振った。「友達になりたいんだと、思う」
 「そうですか」ぼくはホッケを取る手を止める。「では、そうユリさんに伝えましょう」
 「そうね」
 ヒロコは頷き、焼酎を呷った。
 「さて、ユリさんへの回答はそれでいいとして―」ぼくは、だし巻き玉子をつまんだ。「問題は、ユリさんのセクシュアリティ―つまり、性的指向を否定してはならないってことですね」
 「そんなことをするつもりはないの。人の性的指向は自由であるべきだと思うし、それを恥じる必要もないと思う」
 「勿論です。しかし、ヒロコに振られることによって、ユリさんがそう思ってしまうかもしれません」
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