夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「それは―」ヒロコは何か言い返そうとするも、言葉が続かない様子。「そう、なのかも」
 「例えヒロコがユリさん個人を振ったとしても、ユリさんは同姓愛者だから振られたのだと勘違いするかもしれません。きちんと話し合って、ユリさんを納得させないと、ユリさんの人生を狂わせてしまいます」
 「うん」ヒロコは頷く。「解ってる」
 「それならば、ぼくから言うことはありません。どんな形であれ、当人同士が納得出来る終わりを願ってます」
 ぼくは、だし巻き玉子に醤油を掛けた。作り手に失礼だと思いつつも、酒を呑むと辛さが欲しくなる。
 ぼくは、だし巻き玉子を口に運んだ。辛い!でも、美味い!
 ぼくが、だし巻き玉子に舌鼓を打っていると、「一つ、お願いを聞いてもらえる?」とヒロコが、すまなさそうに言った。
 「何ですか?」
 「一緒に、ユリさんに会ってくれない?」
 「えっ!」ぼくは心底驚いた。その拍子に、飲み込もうとした、だし巻き玉子が気道に入って噎(む)せる。
 ゴホッ、ガハッ、ゴホッ、という感じで噎(む)せるぼくの背中を、ヒロコは優しく擦ってくれた。
 一頻(ひとしき)り咳き込んだ後、ぼくは水を飲んで漸(ようや)く落ち着いた。
 「ありがとうございます」
 ぼくはヒロコに礼を言った。
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