夜明けのコーヒーには 早すぎる
 レジには、ぼくよりも一回り若い子がいた。
 ぼくが本を差し出すと、慣れない手付きでレジを打ち、包装してくれる。
 「3150円です」
 少し高めの声が可愛いらしい。
 ぼくは3150円丁度差し出した。
 「ありがとうございました」
 辿々(たどたど)しくも、一生懸命なのが解る。
 若いっていいなー
 そんな年寄り染みたことを考えながら、ぼくは本屋を出た。

 「カドカワさん」
 本屋を出たところで、不意に声を掛けられる。
 声のした方を向くと、何とユリさんがいた。
 「ユリさん。これは奇遇ですね」
 「はい」ユリさんは微笑む。「直接お会いするのは、二度目です」
 そういえばそうだ。
 ヒロコとの会話に良く出てくるもんだから、何だか実感が湧かない。
 「そうでしたね。何だかそんな気がしないのが、自分でも不思議です」
 「わたしもです」
 「成る程。これも、ヒロコのお陰ですね」
 「確かに」ユリさんは頷く。「そういえば、この間は姉が大変お世話になったそうで―」
 ユリさんは深々と頭を下げて、「ありがとうございました」と礼を言った。
 「礼を言われるほどではないですよ」ぼくはユリさんに微笑み返す。「それに、礼ならヒロコに言って上げて下さい」
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