自己愛ラブレター
それでも結局、花言葉ではなかった。
「ごめんなさいね、振り回しちゃった」
薫さんは謝るが、私達は気にしないで、と必死に伝える。
私は首を左右に振って、
「私達じゃ何もわからなかった。だから、ありがとう」
と薫さんに言った。
「それに、こっちが振り回しちゃったし」
それに続いて妹も、持っていた図鑑を閉じて薫さんに笑顔を向ける。
薫さんも、それなら良かった、と微笑んだ。
そう、私達が久しぶりの手掛かりに高揚して、大袈裟にしただけなのだ。
時々にしか考えないことだから、何かあったら一気に興味がそちらに流れてしまう。
だが、残念な結果になってしまい空気が少し重苦しい。
それを察したのか、母が「夕飯の準備しましょうか。薫ちゃん、手伝ってもらえる?」と薫さんとキッチンへ行ったので、とりあえず解散となった。
私は、課題がまだ途中であることを思いだし、自室へと向かった。
部屋の机の上には、スケッチブックと鉛筆、消しゴムが転がっていた。
全体的な構図と、描きかけの絵。
私は鉛筆を持つと描きかけの絵に線を足す。
私は兄のような名が知れた大学には行かず、地元にある美大へ通っている。
勉強はそれなりで、特にすごい特技があるわけでもない私のとりえが絵だったため、将来的に役に立つかはわからないが好きなことをしてみようと思ったのだ。
美大はなかなかに厳しく、最初は絵を描くことを楽しんでいた友人は、今はテーマに沿った“上手な絵”を描くようになった。
なかには絵を描くことから離れた人もいる。
私は元々絵が描きたいがために入学したので、今でも先生に何を言われようと自分の描きたいように描いている。
別に大賞を目指している訳ではないから、楽しく描いていた。
幸い、最近は少しずつ賞をいただくことも出来るようになり、充実していた。
絵は、何にも縛られるべきではないのだ。
先生からは技術を盗むことはあるが、絵の表現は人それぞれ。
だからは私の絵はきっと、自由なんだと思う。