自己愛ラブレター



私はさっさと夕飯を食べ終えてしまうが、成人組は話が盛り上がっているせいで長引きそうだった。
妹は早々に夕飯を切り上げ、リビングにはいなかった。
話についていけないのがわかったからか、先にお風呂に入ると言っていた。


私は課題のために自室にこもった。
新しいスケッチブックに名前を書き、表紙を捲った。
当たり前のように、真っ白な1ページが目に入る。
課題の続きを、と思って鉛筆を手に取り、真っ白に黒を重ねた。
構図を描き始めるも、思ったようにならない。
消しゴムで重なる線を消して、もう一度、と思うが、気が乗らなかった。

そういえば、お父さんの手紙に“真っ白な花”とあったっけ。
と、ふと思い付き、私は真っ白な花を描こうとした。
その前に、妹の部屋に行き図鑑を拝借する。
白色の花、とあっても沢山の種類があるため何を描くかで迷ったのだ。
しかも、色を使わないために“真っ白な花”は何の花を表しているのかが伝わりにくく、結構難しいのだ。
アネモネ、オレガノ、キキョウ、ユリ、スイセン、カモミール……とりあえず聞いたことのある花で描こうと、そこらへんのページを開いた。
そして、真っ白なスケッチブックの1ページに線を重ねる。
やはり線画では何の花なのかわからない。
伝わるように、伝わるようにと何度も描き直す。


やっと描けた、と思ったとき、スケッチブックの1ページいっぱいに、真っ白な花が咲いていた。
色鉛筆を取り出し、色のないそこに影をつけていく。
だんだんと浮かび上がる絵に、私自身わくわくしていた。

これが色のついた花なら、どんなに描くのが楽だろうか。


…………あ。

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