自己愛ラブレター



それから1年が経ち、兄はめでたく薫さんと結婚。
家を出ていった。
妹は高校を卒業すると同時に、県外の専門学校に進むために家を出た。
私はまだ、家にいる。
でも、絵画を学ぶために留学することになったため、私が一番遠くに行ってしまう。

時が経つにつれ、ばらばらになってしまうのはしょうがないことだ。
それでも11月13日の今日は、家族が集まりお父さんの墓参りに来ていた。

「お父さん、私、フランスに行くことになったよ。学校側が直々に推薦してくれたの。すごいでしょ。だからね、来年から数年間、来れないかもしれないな」
寂しさを嫌っていたお父さんに、すごく申し訳ない気持ちになる。
それと、母を1人にしてしまうことにも。
「お父さん、きっと喜んでるわよ」
母は嬉しそうに言うが、表情は決して明るくはない。
ひどく罪悪感に襲われた。
「ごめんね」
私は母に聞こえるか聞こえないかのぼそっとした声で呟いた。


その後、それぞれお父さんに報告をし、花を供えたりしていた。
毎年この時期の風は冷たいのだが、今年は特に冷たく感じた。
でも、誰も「寒い」とは言わなかった。
……いや、言えなかった。

今回が、最後な気がしてならなかった。
日本に戻って来てから、また墓参りはみんな揃って行くことに変わりはない。
でも、何か、最後な気がしてならなかった。
何が、最後なのだろう。
何が……────



「あ、」
私は思わず声に出した。

そうだった、思い出した。
この4人で来るのは、最後なんだ。

私は薫さんの腕を引っ張り、そして母の腕も引っ張った。
すると、自然に集まってくる家族。
どうしたの、と母の問いかけに言葉は無しに、笑って返す。



「あのね、お父さん。“真っ白な花”が、一輪、増えるのよ」


母が「そうね、忘れてた」なんて言うと、みんな同じようにそうだった、と言う。


私は、少し膨らんだ薫さんのお腹を撫でた。
新たな命が、家族が、ここにいる。

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