あたし、猫かぶってます。
早瀬の胸板に顔を押し付けられているような体勢。ジタバタと暴れながら精一杯の抵抗をしてみるけれど、身動きが取れない状態のあたし。
「こら、暴れんなって。」
そう言って、ちゃっかりあたしの背中に手を回す早瀬に、キュンとしたなんてーー口が裂けても言えない。
「奏多が、来る!!」
こんなところを奏多に見られたら、きっと今度は前以上に奏多を不安にさせてしまうに決まってる。これ以上、最低になりたくないーー
「知らねえ、」
さっきみたいなあたしを気遣う口調じゃなくて、自分の意思を貫き通すようないつも早瀬の口調。
離れなきゃいけないのに、そんな早瀬の口調にどこか安心しているあたしが居て。
「俺から誘った。棗が居るのに結衣に手ぇ出した俺が全部悪い。」
早瀬の一言一言が、奏多に向けようと必死だったあたしの気持ちをいとも簡単に攫っていく。
「そんな、早瀬は…っ!」
悪く無いじゃん。むしろ悪いのは、あたしなのに。
「悪者でいいから、ーー結衣に触れたいんだよ。」
ギュッと抱き締められる。早瀬の温もりを欲しがるあたしが、どこかに居る。どうしよう、あたし、どうしたらいいの?
「奏多の彼女でいいから、今は俺を見ろ。」
あぁ、なんかもう。好きだ。前から自覚していたけど、必死に忘れようとしていたけど、
あたしはまだ。泣きたいくらい、早瀬朔が好きなんだ。
「…っ、」
好き、大好き、ちょー好き。…なんて、言葉には出来ない気持ちを、心の中で何度も何度も何度も叫んでみた。
明日からはちゃんと切り替えて頑張るから、今日から1ヶ月は絶対泣かないからーー今だけは、こんな気持ちになるあたしを…許して下さい。