ROMANTICA~ロマンチカ~
あわただしく走って涼輔を追い越し、子供に駆けよる。


母親と思われる若い女だった。


 
「ユーちゃん、こんなとこにいたのね。心配したよ、もう……。ごめんね、ママ、ちゃんと見てなくって」


 
まだ泣きやまぬわが子を助けおこし、抱き上げる母親。



その胸のブラウスに顔を埋める子供。

何やら言っている。
 

「ありゃ、ユータ転んじゃったの? そう、痛かったね、ここ? よーし、痛いの痛いの飛んでけー! ほら、治った。もう痛くない」

 

適当な場所をなでさすられ、ようやく泣き止む子供。


 
「さあ、急がないとパパの試合始まっちゃうよ。祐ちゃんも行こうね。行って応援しよう、パパ頑張れーって」
 

「うん」
 


子供はこっくりとうなずく。
 
その顔に、初めて笑みがうかぶ。


さっきからそこにいた涼輔に、ようやく気づいた母親がほほえみ、会釈してすれ違う。



今日だけやって来た、臨時の特別会員ではないのだろう。

彼女の笑みには、媚(こ)びがなかった。



子供は母親の胸に抱かれ、舟をこいでいる。

今にも眠りに落ちそうだった。
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