ROMANTICA~ロマンチカ~
まだ、足許がフワフワして、おぼつかない。


池のほとりを抜け、パーティ会場に戻ろう。
 


苔むした石の上を歩いた時、身体がフワッと浮いた。
 


「わあ!」
 

ザブン!
 

水音も仰々しく、あたしは池に転落した。
 

――冷たい、寒い、水が……。

ああ、どうしよう! 涼輔さんの上着着たまま……濡れちゃった……。
 


鯉がワラワラと群がってきて、身体中に吸いつく。
 


気持ち悪い。


相手がピラニアじゃなくって、鯉だということを喜ぶべきか?
 

池は、案外深い。
 


――足が、立たない……。
 

――どうしよう……あたし、カナヅチなのに!
 

――ああ、ここで死ぬんだわ……。
 


夏目漱石が描いた猫は、酒ガメの中で溺死したけれど、あたしは池で鯉に吸いつかれて溺死だ。


まったく、大した死に方だ……。
 


「ブクブクブク……」
 


水を飲んでしまったらしい。
 


――………。
 


意識が遠のいた。
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