ROMANTICA~ロマンチカ~
ヤナギヤときたら、数日前にどこかへフラリと出かけてきて以来、やたらモンモンとしているのだ。


僕が何を話しかけようが、今日、依頼人が浮気調査の依頼をしようが、まるで上の空だった。



今日やって来た奥様だって、僕がお茶を出し、依頼内容を聞いて差し上げたからこそ、怒って帰られることをまぬがれたようなものなのだ。
 


「確かに本格推理は面白い。

個人的には社会派よりも好きだ。

だが、松本清張が描いたような本物の刑事は、絶滅しちまったんだろうか? 

大体、刑事になろうなんていう人間に、本格推理に出てくるような名探偵たる器の持ち主なんていやしないのさ。

名探偵の素質などこれっぽっちもない社会派刑事は、社会派刑事らしくねちっこく捜査していけば良いものを、。

ああ嘆かわしい! 

刑事ってのはなぁ、職業じゃないんだよ。生き方なんだよ。

一見サマツに思える小さな疑問点に続く、驚愕の真実。

全ての線は点から始まるんだよ。

自動車事故がありました、

自損事故でした、

焼けた車を調べました、

ブレーキの配線に鋭利な切断面があったと鑑識は報告しています、

はい、そうですか。


それでおしまい。

そんなことですませていいと思うかい? 

それで平気でいられるサラリーマン刑事ばかりでいいと思うかい? 

ああ、日本の行く末が不安だ!」
 

探偵は演説をぶった。
< 178 / 369 >

この作品をシェア

pagetop