ROMANTICA~ロマンチカ~
あたしが正気に戻ったのは昨日の夜のこと。


出張先のニューヨークから戻って来たばかりだという「婚約者」が目の前に現れ、あたしに婚姻届を突きつけた時だった。

 
「ここと、ここにサイン、捺印しろ」

 
あたしを氷みたいな冷たい視線でそいつはみた。


頭の上から足の先まで、まるで値踏みするみたいな感じ。


その瞬間、あたしは一月ぶりに正気に戻った。

 
「ちょっと、誰よあなた? 

婚姻届? 
冗談はよしてよ。だってあたし、まだ学生よ? 

大体あなたのことなんか知らないのに、どうして結婚なんかしないといけないのよ?」
 


「原島」
 


神経質そうに眉根を寄せて「婚約者」は執事を呼ばわった。


「婚約者」は鉄仮面のように冷たくて、やることなすこと偉そうな男で、あたしは一目でそいつが大嫌いになった。
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