ROMANTICA~ロマンチカ~
この男はパパの親友の息子を名乗っている。



でも、あたしのパパの親友に、こんな冷たい息子がいるような人間がいるわけない。


あたしは、そう確信した。
 

「そのぅ、都季様は、ショックのあまりでしょう、この一ヶ月ばかりノイローゼ気味でおられまして……」

 
困ったような顔で、執事さん(この人は好きだ。優しいおじいちゃまって感じがする)が言うと、「婚約者」は、


 
「まあいい。サインしろ。式はおまえの母親の四十九日が済み次第執り行う」


 
ヤツは初対面のあたしを「おまえ」呼ばわりしやがった。  

 
大体、自慢じゃないがこのあたしに「婚約者」がいるわけなんてないのだ。


 恋愛? 結婚? すればいいわ。ただし、手に職をつけて自立して、自分の食いブチを自分で稼ぐことができるようになってからね。

 
パパが死んで以来十二年間、念仏のように耳元で繰り返されてきたママの言葉。
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