ROMANTICA~ロマンチカ~
試合終了後、一礼すると、彼はその場をすみやかに後にした。



自分に向けられた称賛のつぶやきとため息など、まったく聞こえないかのように。



実際、いつものことだった。

なれっこでもあった。


 
「氷室君。今日はわざわざお運び頂いて、本当に感謝している」


 
シャワーを浴び、スーツに着替えて控え室から出てきた涼輔を、西九条会長がねぎらった。



「いえ。しかし会長、本当にあのようなパフォーマンスをして良かったのですか。こんな若輩者がおそれ多くも会長の顔にまわしげりを放ったりして」



面白くもない、といった口調だ。



「何をおっしゃる」



首にかけたタオルで、ハゲ頭の汗をぬぐいながら、会長がいった。
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