マッタリ=1ダース【1p集】
◆3ダース

第25話、集中交差

「なに言ってんだコイツ?」
 街の大型モニターに映し出された初老のコメンテイターにイライラ感が募る。

 シンジは職を失い、街を彷徨う若者の一人に過ぎなかった。

「ワケワカンネェよ。ナンなの? ナンも分かってネェーくせに」

 キリキリキリ。カッターナイフが音を立てる。小学校の頃から、肌身離さず持っている物だ。

「殺っちゃおっか?」

「殺っちゃいますか?」
 側にいた小太りな弟分、シローが半笑いで返す。

「えっ、それホント?」
 割り込んだのは、高校をサボり、街の段差でフライドポテトをつまんでいたアケミだ。

「ホンキさ。こんな奴にアレコレ言われたくねーし」

 今度はカチカチとゆっくりと鳴らす。

「兄貴。コレ生だよ。テレビ局はすぐそこだし」

「ああ、そうだな」

「やめなよ」
 くわえたフライドポテトが、打ち損じた釘のように曲がっている。

「オマエはさ、イライラしねーのかよ。ガッコ行かずにさ、こんなテレビのヤツに知ったような口利かれてさ」

「カンケイ、ないし」

「なら、黙ってろよ」

 シンジはズボンの後ろポケットに手を入れ、歩き出す。その後ろを原色のジャンパーを着たシローがついて行く。

「ばか」
 フライドポテトがぽとりと落ちた。アケミは食べ終わった袋を、手の中で握りしめる。

 ──テレビ局のあるビルのテナントを経由し、地下駐車場に忍び込む。警備室とカメラの死角になっている柱の陰に、二人は身を隠す。案外簡単だった。

「ここで待ち伏せれば、きっと来ますね」

「ああ」

「じゃ、オレ用事あるんで頑張って下さい」

「な、なに」

「バイトの時間なんスよ。それにオレは兄貴の応援に来ただけですから。あのデッカイテレビで放送されるのを楽しみに待ってますよ」

 シローは言い終わると駐車場から出ていった。

「チッ」
 舌を鳴らした。

「結局、オマエらみんな、刺激がほしいだけなんじゃねーのか。誰かをエサにして」

 自分を含め、あのコメンテイターが言っていたことを思い出す。

「バカは、オレの方か」

 シンジは持っていたカッターナイフを見つめる。
 誕生日に両親から工作好きな自分へ贈られた、大切な品物だった。
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