マッタリ=1ダース【1p集】

第27話、心中ホテル

「何だか君の体、死体みたい」

 ベッドに腰かけた若い男が、灰皿を片手に煙草を吸う。

「えっ?」

 シーツをたぐり寄せ、体を起こす。掻きむしられたような髪の毛を、壁に押し付ける。

「感触がね。死体を抱いているようだった」

「冷たいってこと?」

 男の背中に向かって、恐る恐る聞く。

「さあ。ちょっと違うかな」

 吐き出した煙が、部屋の隅に追いやられる。

「時間……まだ仕事、行くんだろ?」

「ううん。大丈夫」

「そう」

 灰皿に煙草をねじこむ。

「オレはもう行くよ。あんまり店を空けるわけにはいかないし」

「うん」

 シャツをはおり、ボタンを留めだした男を、女はただ眺めている。

「アタシも会社に戻らなくちゃ」

 下着を探すため、わざとらしく視線を動かす。

「はいよ」

 男が一掴みにして、女に渡す。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 ズボンのベルトを締めた男は、余裕を作るため背筋を伸ばす。

「じゃ、また今度。お店で声掛けて」

「いいの? 誰か嫉妬しない?」

 下着を持ったまま、着ようともしない。

「そんなに器用じゃないよ」

 普段お店でみせる笑顔とは、また違った表情だった。

「今度……アタシが死体なら、命を吹き込んでくれる?」

 男が襟に掛けた指を止める。

「アタシを抱いて、生き返らせて」

 女は裸体のまま立ち上がり、男の襟をなおす。

「そうだな、息を吹き掛けてあげるよ」

「息?」

 男が耳元で囁く。

「抜け落ちた魂が宿るように……」

「うふふ」

 女はベッドに戻り、男は部屋を後にする筈だった。


 ──街のホテルの一角で何度も繰り返される、男と女の営み。

 事件が起こったのは四年前。まさに二人のいたこの部屋だった。情事の後、情緒不安定に陥っていた女が、男の背中を用意した刃物で突き刺し、殺害した。その後、女は大量の睡眠薬を服用し、自殺したのだ。

 事件を機に、奇妙な現象の絶えなかったホテルは、廃業に追い込まれた。

 しかし、当人たちは何も気付いてはいない。

 閉じ込められた世界で、生きた証を、ただ、無限に求め合っている。
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