マッタリ=1ダース【1p集】

第47話、春らんまん

「今、見たでしょ?」

 お尻からスカートを押さえ、振り向き様に僕ににじり寄る彼女。

 朝、校門に続く急な坂を上っている時の話だ。

「私たち、まだそんなの見せあう関係じゃないと思うんだけど……」

 はァ!?
 朝っぱらから何を言い出すんだ?

「見せるも見せないも……見ていないし、意味もわからん!」

 この女──七海とは幼稚園・小学校・中学校と続き、挙げ句の果てには高校で同じクラスになった。要するにあどけない頃から知っている訳で、パンツの一枚や二枚、余裕で見ている。

 そんな彼女も、今や大人の香りのする女性だ。同性異性を問わず、気がつけば既に学校で絶大な人気を誇っていた。

 生徒会の役員にも選出されているが、中身はちっとも変わっていない。この低レベルな問答が、まさにその証だ。

 やがて、僕たちの足元にまで、桜がチラチラと舞い落ちてくる。

「ずっとチャンスを窺っていたでしょう?」

「何のチャンスだよ。ヒマじゃないんだから。それに、遅刻するって」

「誤魔化したってダメ! 謝りなさい!」

「ちょっと待て……って! いきなり見たとか、謝れとか、酷くないか?」

 両腕を小さくバタバタさせて、取り繕っている自分が情けない。

「明日からシュンに覗かれないよう、リュックにする。だらりと下げて、スカートをガードするの!」

「でも、それだと走った時に引っ付いてめくれるから、逆効果だよ」

「じゃあ、どうしたらいいの?」

「そうだな。えーと……」

 なんで僕が七海のガードの事を考えているんだろう?

 だいたい僕の名前は俊也(トシヤ)だ。七海のせいで、学校ではシュンとしか呼ばれない。

「急いで! 遅刻するわ」

「ち、遅刻!?」

 その時、二人を包んだ爽やかな風が、七海のスカートをふんわりと持ち上げた。

 見えそうなところで、間一髪、七海がガードする。

「残念だったわね。代わりに今度デートしてあげる」

 七海はいつも僕を誘う時、理由を付けたがる。

「素直じゃないよね」

 颯爽と先を行く七海を目で追いながら、脳裏でイメージする。

 視界は良好。
 薄ピンク。
 極めて、春らしい。

 僕の立ち位置は、急勾配な坂の下だ。
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