マッタリ=1ダース【1p集】

第51話、スーパーカッポン

 猛烈な台風の朝だった。警報が解除されないと鷹を括り、仕事に行く気のなかった私は、ほどなく大を催した。寝室から一人抜け出し、家で唯一のトイレに腰かける。

 あれ? 流れない。水位だけ上がる。もう一度流す。さらに、水位が上がる。台風の影響だろうか?

 まずい。早く流してしまいたい物がプカプカと浮かんでいる。更にもう一度。やはり、流れない。水位がどんどん上昇する。

 オイオイオイ……マテマテマテ……待てったら!

 便器のツラまで来る。表面張力で耐えるか? 耐えるか? 耐えろ、耐えろ、耐えろ!!

 虚しく溢れ、汚水が便器から流れ出す。トイレットペーパーを手繰り寄せ、垂れた部分を押さえるが吸収しきれない。幸いなことに、溢れたのは汚水だけで、汚物の殆どは、一線を超えなかった。

 警報の解除次第で、まだ出勤する可能性がある中、まいったなー、という言葉しか出ない。

 床を掃除し、一息つく。ごく僅かだが、水位が下がっているようだった。とりあえず家族が使用しないように便器にフタをし、使用禁止と書いた貼り紙を付けた。起きてきた家族が、みな、驚く。

「これ、どういうことよ?」

「開けないほうがいい。台風の影響で逆流しているみたいだ」

「流れないの?」

「そのうち、本当に詰まると思う」

 台風速報と共に、ネットで調べた知識だった。因みに水に溶けるトイレットペーパーでさえ、詰まる時は詰まるのだ。

「業者、呼ぶ? このまま会社に行ったりするんじゃないでしょうね?」

 トイレが壊れたという不安感は半端ではなかった。そして妻のねちねちとした言い回しに、心臓がバクバクする。

「まさか」

 ネットに自分たちで出来ることが書いてあった。

 かっぽん、である。一般的には吸盤に棒が付いたようなアレだ。家になかったので、ホームセンターに買いに行く。値段が五倍ぐらいしたが、注射器の要領で作業が出来るタイプを購入した。早速家で試す。

 カッポン、カッポン、カッポン!

 選択に間違いはなかった。普通のタイプだと、引いた時に吸盤が外れてしまうが、吸着したまま連続攻撃が出来た。

 詰まりが取れ、ほどなくキレイに水が流れる。大きな達成感と共に、みんな流れてしまえ……などと、ただ漠然と願う私がそこにいた。
< 51 / 57 >

この作品をシェア

pagetop